望月拓也氏 監査役インタビュー

ベンチャーの「新たなガバナンスの在り方」を目指して

株式会社スマレジ
常勤監査役 望月拓也氏

株式会社スマレジ 常勤監査役 望月拓也氏

ベンチャーの「新たなガバナンスの在り方」を目指して

株式会社スマレジ
常勤監査役 望月拓也氏

会社名:株式会社スマレジ
常勤監査役 望月拓也氏
出身地:大阪府岸和田市
キャリアサマリー
2001年 株式会社イーニュース入社
2005年 有限会社ジェネフィックス・デザイン(現:株式会社スマレジ) 取締役 就任
2017年 当社 常勤監査役 就任(現任)
会社のウェブサイト
https://corp.smaregi.jp/

一周まわって監査役!監査役になった経緯

私の場合は非常にレア・ケースだと思います。
現在のスマレジの前身である企業を興してそこの役員を5年やり、その後一従業員として7年働いた後に、思いがけず監査役になったんです。

創業者が一従業員に 監査役就任前夜

2001年に個人事業を始めました。ホームページを作る仕事です。
当時はインターネット関連の事業はまだまだ珍しくて、私の職場にはよく後輩たちが遊びに来ていました。その中に現在スマレジの代表取締役を務める山本がいたんです。
山本はインターネットに興味を覚えて、システム開発会社に入りました。

2005年、現・スマレジ顧問の徳田と組んで事業を法人化し、スマレジの前身となる会社を設立して、取締役に就任しました。その翌年、山本も合流しました。

ところが、しばらく事業を続けていくうちに、ビジネスモデルの限界が見えてきたんです。
そこで、思い切ってシステム開発の子会社を作って、山本が代表に就きました。
その後、山本が中心になって、現在の主力サービスの基礎となるクラウド型POSレジサービス「スマレジ」を開発しました。

お陰さまで、それが軌道に乗りました。お客様に喜んでいただけたことが何よりも嬉しかったですね。
そこで、子会社を吸収合併して、山本が率いることになりました。会社のことを考えたら絶対に山本にやってもらった方がいいと判断したからです。

では、自分はどうするのか。創業して大切に育ててきた会社を去るのか、それとも会社に残って一従業員として働くのか―その二択だったんです。

悩みに悩み、結局、決心がつくまでに半年かかりましたが、山本はその間、何も言わずに待っていてくれました。

私が選んだのは、会社に留まって、一従業員として働くことでした。
「せっかく縁あって出会ったメンバーとここで別れるわけにはいかない。この会社の行く末をもう少し見守りたい」
そう思いました。
「今見えている景色もこれから変わっていくだろう。その変わっていく景色をみんなと一緒に見たい」と。

会社への強い想い 監査役就任の決め手

それからは裏方に徹して、会社のためになることなら何でもやりました(笑)
通販も広報も人事もやりました。

そして、ちょうどスマレジがIPOの準備を始めて1年が経過した頃、山本から常勤監査役になってもらえないかと打診されたんです。
思ってもいないオファーでした。

当時は私も採用を担当していたのでよくわかっていたんですが、常任監査役がなかなかみつからなかったんですね。
でも、その頃は監査役がそもそもどういうお役目で何をしなければならないのかさえわかっていなかったので、即答はできませんでした。

まず考えたのは、このタイミングで自分が常勤監査役になることが、果たして会社のメリットになるのだろかということです。

決め手は会社への想い。それは誰にも負けないつもりですから。
会社にはさまざまな人が関わっています。従業員やその家族、取引先やお客様。それらの方々にどうしたら喜んでいただけるか、どうすれば幸せになっていただけるか、そのことをずっと考えてきました。

それで、自分が監査役になることで会社の企業価値を高めることに寄与できるのであれば、それこそが自分の使命ではないかと思い、引き受けることに決めました。

反対されて感謝する 就任をめぐる反応

私が常勤監査役に就任することに関して、取締役会としては賛否両論だったようです。
就任の承認を得るための株主総会の直前に、「私は賛成していませんからね」と言いに来られた取締役もいました。

その取締役の方が会社のためを想って言ってくださったのはよくわかっていましたし、私自身、会社のためにならないのなら、自分は常勤監査役にはならない方がいいと思っていました。

それに、そういう状況で就任するからには、絶対に自分は立派にやり抜かなければならないと肝に銘じることが出来ましたから、その意見が本当にありがたく、今でも感謝しかありません。

そんなふうに、巡り巡って常勤監査役に就任したのは、2017年です。

<黒坂談>
山本社長が望月さんに常勤監査役をオファーしたのは、おふたりに深い信頼関係があったからこそで、長い付き合いだからという馴れ合いとは全然違います。
そもそも、生半可な関係だったら、子会社を吸収合併して、元子会社メインでやっていこうという段階で空中分解です。

でも、望月さんはご自分のプライドを捨てて取締役を辞任し、一従業員としてずっと会社のために尽くしてこられた。そういう望月さんを間近で見ていたのは山本さんです。望月さんならこれからも、誰よりも会社に貢献してくれる―そういう信頼感と確信ですね。

そして、それは実に正しい人選だったと思います。スマレジはその後、確実によくなっています。

ベンチャーの新しいガバナンスの在り方

株主が常勤監査役でも問題ない?

山本から常勤監査役就任の打診を受けたとき、真っ先に頭に浮かんだのが「監査役としての知識が全くない状態で本当にやれるだろうか」ということです。

というのも、監査役に問題があって上場審査で承認が得られなかったというケースがあったことをよく耳にしていたからです。
上場を目指して全員が走っているときに、自分が監査役に就任することで足を引っ張るようなことは、絶対にあってはならないと思いました。

でも、監査役はその会社に雇用されているわけではなく、株主から委託を受け、その会社の代表取締役を含めた取締役の業務執行が適正かつ適法であるかどうかを監査する立場であること、またその務めが果たせれば株主であっても問題ないこともわかったので、引き受けたんです。

上場企業は全国に3,800社あまりありますが、私のように株主が常勤監査役に就任するのはレア・ケースだそうです。

<黒坂談>
私は株主が監査役を務めることには合理性があると考えています。株主は会社が企業価値を
上げることを望んでいます。それは株主にとってもメリットですよね。
それに、株主であれば、会社に対して牽制が効きます。それが創業者であればなおさらです。

ただし、望月さんの起用が成功したのは、単に望月さんが株主だからでも、創業者だからでもありません。

レア・ケースに成功を呼び込む条件

<黒坂談>
スマレジが成功を呼び込んだのは、そのための必要条件をクリアしていたからです。
まず、望月さんには監査役としての専門性があります。猛勉強して、監査役の任務をきちんと理解した上で監査役に就任されました。その専門性と気構えがひとつ。

それから、創業者である望月さんは会社に対して本物の愛情を抱いています。本物の愛情だからこそ、公私混同せず、長いつき合いの経営陣を冷徹に監督して、問題があれば遠慮なく指摘されるでしょう。

それは、経営陣の望むことでもあるんですよね。経営陣にとっても自社の企業価値が上がれば、それを従業員や株主に還元することができるのですから。

スマレジはこうした条件をすべて備えていたからこそハマったのだと私は分析しています。こうした条件が揃わなければ、逆にリスキーです。

実際にスマレジはどんどんいい会社になっています。これは、「ベンチャー企業の新しいガバナンスの形態」といっていいでしょう。
その中で、望月さんが新たなロールモデルになってくださったことが、多少なりとも助言をしていた立場として、本当に誇らしいです。
こうした成功事例を、これから広く正しく伝えていきたいですね。

常勤監査役としての取り組み

就任後に取り組んだこと

私が就任したとき、会社は既に上場準備に入っていました。
それで、常勤監査役としての修練と足固め、そして上場準備を並行してやっていました。

私が就任する3ヶ月ほど前に、先に社外監査役が就任されていましたが、常勤監査役は私が初めてでした。そこで、就任後はまず年間の監査計画を立てて、監査役協議会を月に1回のペースで設けて、社外監査役と協議しながら、監査役協議会議事録(後に監査役会を設置)を作っていきました。

黒坂さんからもアドバイスをいただきながら、内部監査担当と連携して、各部署のヒアリングや内部統制状況の確認をしつつ、役員交通費接待費などをチェックして監査調書も作りました。
会社的に不備はないか、ガバナンスはきちんとできているかを把握して、上場審査時に質問されたこと全てに対して胸を張って答えられる状態を目指しました。
会社の価値を高めていきたいという想いは、経営陣とずっと共有していました。

<黒坂談>
スマレジはチームとして素晴らしいんですよね。ただ、これからは次第に役員が入れ替わっていきます。社内の状況も変わっていくと思いますし、人間、どうしても慣れが出てくるものです。
でも、望月さんのような方が監査役をやってくだされば、隅々にまで目が行き届きます。そういう意味で、望月さんが常勤監査役というのは大きいですね

上場をめぐって

上場準備は大変でした。
全てが初めてのことなので、何をしたらいいのか、何が正解なのかわかりませんでした。
ただ、それは事業を興したときと一緒です。パソコンを触ったこともなかった自分がインターネット関係の仕事を始めて、いろいろなことにチャレンジしてここまできた。今回も一歩ずつ前進していくしかないと考えました。

お陰様で、2019年に東証マザーズに上場することができました。
上場承認がおりた1か月後に、今までニュースで見ていた東京証券取引場で鐘を鳴らしたときには万感胸に迫りましたね。

上場後は、資金が確保できるようになったため、M&Aも可能になり、会社は攻めの経営ができています。人脈も広がりました。

上場準備をしていた当時は25名くらいでしたが、現在は200名を超える組織になりました。
今は従業員の生の声をきくようにしています。従業員に指示しているのは上層部なので、従業員の言葉から経営陣の実像が見えてきます。
会社に関わる多くの人たちから忌憚のない話を聞けたら、万が一問題が生じていても、いち早く気づけるのではないでしょうか。

それで、できるだけ多くの従業員とコミュニケーションをとって、職場環境に問題はないか、困っていることはないかと、膝を交えて尋ねています。
上司には言いにくいことでも私に打ち明けてくれたらありがたいですね。

上場を果たして大所帯になった今だからこそ、社員1人ひとりに気を配ることが大切だと考えています。

監査役として心掛けていること

会社を健全に継続させるために監査役がすべきことは、会社組織を俯瞰して、それが法律と適合しているか見極めることです。

株主の大半が取締役という状況の場合、間違いを間違いだと指摘するのは難しいことかもしれません。保身のために、役員に遠慮して、不正を見逃す監査役もいるそうです。
でも、私は万が一問題を見つけたら、身を挺してでも糺すつもりです。

ただ、実は、スマレジに監査役は必要ないのではないかと思っています。どれほど調べても、不正の影すらみつかりません。厳正なガバナンスが行き届いているんですね。
監査役としても株主としても、そのことが誇らしいです。

<黒坂談>
会社の取締役や株主が求めているのは、間違いは間違いだと糺してくださる方です。 それが正しい在り方なので、すべての監査役が望月さんのようであってほしいと願っています。

初めて監査役になる方へ

初めて監査役に就かれる方はきっと不安を感じていらっしゃると思います。私もそうでした。
でも、黒坂さんが運営していらっしゃる会もあります。勇気を出して参加なさったらいかがでしょうか。

上場企業はまだ関西では少ないこともあって、上場後はさまざまなメディアから取材を受けましたし、経験してきたことをセミナーなどでお話しする機会もいただきました。
その中で特に印象に残っているのは、マルコ・ポーロの「ベンチャー監査役の会」でお話しさせていただいたことです。第1回目でした。
そのとき私の話に耳を傾けてくださった企業の中から上場企業が生まれたのは、本当に嬉しいことです。

世の中にこれだけ多くの人がいる中で出会えること自体、奇跡ですよね。そして、せっかく出会えたのなら、出会えてよかった、あの時あの人に出会えたからこうなれた、そういう状況が生まれれば、すごくハッピーです。
この会では、心配なことがあれば経験者に意見を仰いだり相談したりすることができます。
そういう場で、互いに情報共有して、学び合って、是非一緒に成長していきましょう!