小塚武典氏 監査役インタビュー

目指すは安心感を与えられる監査役

バルテス株式会社
常勤監査役 小塚武典 氏

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目指すは安心感を与えられる監査役

バルテス株式会社
常勤監査役 小塚武典

バルテス株式会社
常勤監査役 小塚武典 氏
福岡市出身・大阪市在住
長崎大学 経済学部経営学科卒業
キャリアサマリー
1998年 マルヨ無線株式会社 入社
1999年 稲光誠一税理士事務所 入所
2004年 株式会社ジェイエムネット(現ジェイエムテクノロジー株式会社) 入社
2011年 株式会社MACオフィス 入社
2011年 バルテス株式会社 入社
2014年 バルテス株式会社 常勤監査役 就任
2018年 公益社団法人 日本監査役協会 関西支部 部会幹事就任
2019年 バルテス株式会社 東証マザーズ上場(5月)
2020年 公益社団法人 日本監査役協会 関西支部 支部幹事就任

監査役に就任したきっかけ

上場準備を始める以前、当社には常勤の監査役がおりませんでした。

そのため、監査部門の立ち上げを含め、引き受けてくださる方を外部から招聘することを方針とし、人材バンクや人材紹介会社に依頼をかけたようですが、要望に適う方が見つかりませんでした。

そのような中、社内のことをある程度把握している社員の方が進めやすいだろうということから、私に白羽の矢が立ちました。なお、過去に所属していた会社で内部監査室長を務めておりましたが、その点が考慮された様子はあまりありませんでしたね。

監査役としての経験

2014年6月にバルテス株式会社の常勤監査役に就任しましたので、2021年11月末現在、すでに丸7年、務めております。
上場が2019年5月ですから、上場準備としての経験を5年、マザーズ上場後の経験を2年あまり積んでいる計算となります。
上場準備に5年もの歳月をかけたことは平均より長いと推測しますが、個人的には、監査法人や日本監査役協会、諸先輩方に質問を重ねることができ、監査役としての物の見方や考え方、会社法や金融商品取引法の理解、行わなければならない作業や手続き、調書の書き方など、監査役全般について理解を深める時間を多く取れましたので、このペースは大変ありがたいものでした。

もちろん、上場後に初めて携わる作業等はございますが、基本的には、上場準備で身に着けた監査の観点で必要な対応を推し測れるようになっておりましたので、上場準備時期と異なり、迷ったり悩んだりすることは少ないように思います。

なお、一般株主を招いた株主総会への出席も2回ございますが、いずれも新型コロナウィルスが蔓延し、株主総会への出席を控えて戴いた時期に重なっており、想定問答の作成などの作業はともかく、まだまだ実体験は足りていないように感じています。

今までのキャリアパスと監査役業務との関係性

卒業後、一年ほど店頭にて家電製品の販売員をしておりましたが、ゼミで選ぶ程度には会計への興味があり、その知識を深めたい気持ちを抑えられなかった結果、一念発起して税理士事務所へ転職しました。
中小企業・個人を主な顧客とする街の税理士さんのような事務所でしたが、1990年代後半だったにもかかわらず、所長が経営分析や税効果会計の強制適用などに取り組んでおられたことは、その後の経理業務に大きなアドバンテージを与えてくれました。同時に、様々な業種の社長や経理責任者の話を聴く機会も得られるなど、5年という期間ではありましたが、キャリアの原点として今でも感謝しております。

事業会社では、幸運にも監査法人の監査対応を任せていただけましたので、月次決算調書の準備等々、監査法人が欲しい情報が何であるか、どのような情報を提示する必要があるか、を実務に携わりながら身につけられました。その後、ちょうどJ-SOX導入時期に内部監査室長を命じられたことで、監査や内部統制、監査役との連携を経験することが出来ました。もっとも、内部監査の経験は、監査役就任後に考え方の切り替えができず、当初は内部監査目線での監査となりがちでしたが……。

このように、税理士事務所にて経理・税務を覚え、執行責任こそ伴わないものの経営分析の基本を学び、監査法人との対応、内部監査室としての監査と、それぞれにおいて、少しずつ監査役業務に関連したというのが、私のキャリアパスの特徴となります。

初めて監査役に就任した時に取り組んだこと

前述のとおり、常勤の監査役が不在だったため、まずは常勤の監査役は何をしなければならないか、の学習から始めました。
社内には何も資料がありませんでしたから、監査役に関する書籍を読んだり、日本監査役協会の新任監査役研修に出席したりと、とにかく情報収集に注力いたしました。とはいえ、監査役としてどのような活動をすればよいのか、具体的な理解には程遠いものでしたから、日本監査役協会の雛形を参考に監査規程や監査基準、監査計画など、とりあえず形になりそうなものを手掛けました。

また、これは就任直後とは言い難いのですが、日本監査役協会の部会で監査活動発表の話を持ち掛けられた際も、出来ていないことを先輩監査役の皆さんから指摘いただける場として、二つ返事で受諾いたしました(実際、幾つかの課題・指摘を戴けたことで、監査の質が向上できたと思います)。

これらの活動の原点は「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という考え方で、逆に恥をかくなら今しかない、と積極的に活動することを取り組んだように記憶しています。もっとも、先輩監査役の皆さんの方が年上だったとはいえ、すでに40を超えた社会人が取った行動として思い返すと赤面しますが……。

上場準備を振り返って

右も左も分からない状態から準備をはじめましたので、隅々まで考えず、ある程度のイメージが持てたら手を動かしました。
監査調書の作成一つを取ってみても、どのような監査をすればよいのか、どのような着眼点を持てばよいのか分かりませんから、ここでも「とにかく」思うがままに作成し、証券会社の引受担当者にチェックをいれていただきました。提出した監査調書は真っ赤になって返ってきましたが、トライアンドエラーの手法が性に合っていたようで、自分が解釈していた監査活動と一般的な監査活動のギャップを分析し、着眼点の持ち方を学ぶように努めました。

また、日本監査役協会の部会にもよく参加しました。特に他社の事例報告を聴くことで、活動の抜け漏れに気づかされたり、自分が持っていない知識に基づく監査観点を学んだりすることが出来ました。具体的な活動を聴くことで、点在していた用語等の理解が結びついて線となり、複数の線が走ることで面として広がりを持たせてもくれたように思います。

一方、社内における課題としては、事後稟議の問題が最後まで残りました。
上場申請の書類作成などは各担当者が取り組めば前に進みますが、稟議のように、全社員が関係する事柄は、浸透するまでに時間を要し、9割9分、適切に申請が上がるのですが、なかなかゼロにならず、直前期の後半に差し掛かるころまで課題として残りました。
事後稟議になってしまう理由・背景をヒアリングして課題解消に努めたり、社長から発信していただいて重要ないし必要であることの理解・認識をしてもらったりするなどして削減に努めました。

このように、監査役としての活動も、取締役や社員など他者の活動も、振り返りや意見交換を行って修正・改善する(他者に対しては指摘あるいは提案)ことの繰り返しでした。自分自身もそうですが、他人にしても納得しなければ行動を変えませんから、納得や理解に必要なことを深く検討していました。

蛇足ですが、相手が行動を変えるかどうかは相手が判断することですから、考えを変えてもらうというより、そういう考え方があることを知ってもらう程度の働きかけ、と御認識ください。

監査のうえで心掛けていること

監査役活動に対する考え方はいろいろあると思いますが、持続的な成長と企業価値の創出をするための活動を取締役が執行しているか、という観点を基本軸に置いています。

もちろん、不正防止や法令遵守という監査観点も持っておりますが、通常の上場会社であれば、その点はクリアされているはずで、株主の皆さんをはじめとするステークホルダーからの期待も「不正をしない会社であること」ではないと考えています。
よって、サービスや管理業務を効率的に遂行できる状態をイメージし、監査に取り組んでいます。これを監査の方針とするなら、監査の心構えとしては、善管注意義務の遂行でしょうか。
訊きにくいこと、指摘しにくいことも中にはありますが、意図を計りかねているのであれば尋ねるしかないと考えています。
もちろん、社長をはじめとして取締役や部門責任者に恥をかかせたり、論破したり、言い負かす必要はまったくありませんから、攻撃的である必要は無いと考えていますし、そもそも株主の負託は私が経営判断を行うことではなく、監査を行うことですから。

なお、多くの場合、聞き手側との情報量の差に原因があるため、より踏み込んだ説明の開示を求めることを原点としています。

どんな監査役を目指したいか

一言で申せば、リスクを最低限に抑えられる監査役を目指しています。
ミスが生じるのは、法令、通達、ガイドライン、規程の理解あるいは準備不足が原因ですから、予防できないわけではありません。

また、不要なリスクは自然発生するのではなく、抑止可能なリスクを除去しなかったため発生するものです。
重要な経営判断を行う際、管掌取締役が一人で決断せず、他の取締役・監査役の知見や見識を活用して適切な判断を行うように、私一人で全てをカバーするのではなく、他の監査役をはじめとする専門家に意見を求めるための気付きや情報発信、もしくは執行部に対する指摘を過不足なく行い、ミスを無くし、バランスよくリスクを抑える活動ができる監査役を目指しています。

監査役という仕事に初めて就かれた方へのアドバイス

さまざまな失敗経験を積み上げた者として、やり直せるなら、次の3点を意識しようと考えています。
まずは、自分の強み・弱みを認識することだと思います。
リソースは有限ですから、自分の強みはそのまま活かし、どのような環境を整えれば弱みを補うことを考えます。
例えば、公認会計士や税理士の知識があれば財務諸表に抵抗感は無いでしょうし、弁護士や司法書士の資格があれば自社を取り巻く法令について適切な対応がとられているか判断が出来ます。そして、それら資格や知見が薄いのでしたら、外部専門家を活用する方法を考えます。

私のように社内勤務者から常勤監査役に就いたのであれば、会社の事業、組織やキーパーソンを知っていることが強みになります。
続いては、自社を取り巻く環境がどのようなものであるか、その把握に努められたら良いかと思います。
監査役に求められる具体的な活動は会社によって様々です。
反社会的勢力の干渉を阻止することが重要な業種も有れば、法規制が厳しく、且つ、守るべき法令が多種存在する業種もあります。
せっかく監査活動を行うのですから、自社の特性に合わせた監査を行いたいものです。

最後は、監査に関する意見交換を行う相手の確保です。
監査役は上司がおらず、達成目標のような分かりやすい指標は有りません。
「何をすべきか分からない」の次にやってくる「自分が行っている活動が正しいのか」という疑問は、自分一人では解消が困難です。
証券会社の引受担当者でも、監査法人でも、社外監査役や他社監査役でも良いので、自分が行った監査について意見をもらう機会を作っておくと、独りよがりとならない監査活動が続けられると思います。