最重要事項はこの人に相談せよ
株式会社i-plug
代表取締役CEO 中野 智哉 氏
最重要事項はこの人に相談せよ
株式会社i-plug
代表取締役CEO 中野 智哉 氏
インタビューイ:マルコ・ポーロ推薦人 中野 智哉 氏プロフィール |
■中野智哉 1978年、兵庫県に生まれる。2001年、中京大学経営学部経営学科卒業。 インテリジェンス(現パーソルグループ)で10年間求人広告市場で法人営業を経験。 2012年、グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)、同年、会社を立ち上げ社長就任。 |
■i-plug(アイプラグ) 本社は大阪市淀川区。2021年3月、東証マザーズ上場。 連結売上高37億4100万円(2023年3月期)。従業員数(単体)236人(2023年3月31日現在)。 登録企業は約1万4千社超。2023年3月の卒業生6,422人あまりの就職につながる。 |
会社ウェブサイト:https://i-plug.co.jp/ |
「最重要事項はこの人に相談せよ」
リクルート界の革命児・中野智哉氏がマルコ・ポーロを推す理由
「経営者には、やり直しがきかない、シビアな経営判断を迫られる瞬間があります。そんな時、最重要事項を相談できるのは、この人しかいません。それほど信頼しています」
2021年3月18日、東証マザーズに新規上場を果たした株式会社i-plug。そのCEO中野智哉氏が黒坂を語る言葉だ。
関西エリアは信用と信頼の連鎖で街並みができている。そのコミュニティに根を張り、ベンチャー企業の支援をし続けられる人間は、黒坂をおいて他にないと中野社長は言う。
本記事では、中野社長と黒坂の出会いから現在に至るまでのストーリーをお届けする。
まるで吸い込まれるかのように
出会いは8、9年ほど前、中野社長がi-plugを創業して、1期目か2期目の頃だったそうだ。
ある集まりで顔を合わせ、挨拶を交わした。
「なんか、本当に変わった人だなあ」
これが黒坂に対する第一印象だった。
話し方からして独特だ。
「この人は頭の回転が速すぎて、口がついていけてないんだな」
そう思いましたと、中野社長は笑う。
実は黒坂はその頃、MUFGの社員ではあったが、営業担当ではなかった。同僚の営業担当者から「すごく面白い会社があるから、そこの経営者に一緒に会いに行ってほしい」と頼まれていたのだ。
だが、その頃、既に上場を見据えていたi-plugは、別の信託銀行との付き合いが始まっていた。
「私はよほど合理的な理由がない限り、取引先は変えません。できたらお世話になった方にずっとお願いしたいタイプなんです。それで、私の方から黒坂さんにお聞きしたわけでもないんですが、なぜかぐいぐい教えてくださって・・・」
会社法、コーポレートガバナンス、SO(ストックオプション)の作り方・・・。
「それが実に的確なんです。勉強会も開いてくださいました」
出会ったばかりで、ましてや顧客でもない相手に、黒坂はなぜそこまでのことをしたのだろう。
「お話を伺ってみると、事業は面白いし、中野さんの印象がすごくよかったんです」
裏表がない実直な人柄だということはすぐにわかったという。それに、実に明快で、ビジョンを実現したいという真っすぐな想いがひしひしと伝わってきた。
「それで、僕の方で興味をもっていろいろお聞きしていくうちに、上場を目指しているのなら、まだまだやるべきこと、整備すべきことがあるのではないかと、失礼ですが思ったんですね。それで、僕がお手伝いさせていただいた方がいいのではないかと・・・」
そのうちに、会社の様々な業務に黒坂のサポートが入るようになった。
「何かに吸い込まれていくかのような感じでした」
と黒坂は振り返る。
もちろんそれは、中野社長の会社だからこそだ。i-plugはついついのめり込んでしまうほどの魅力を備えた会社だと黒坂は言う。
人と人とをつなぎ、キャリア・ポテンシャルを最大化する
それほどに黒坂が惹かれたi-plugとは、どのような会社なのだろうか。
リクルート界の革命
創業は2012年。メインの事業は “OfferBox” だ。
従来の就職活動は、学生が企業にエントリーシートを送って応募するという仕組みだが、i-plugはそれを真逆に変えた。
企業から学生に直接オファーを送ることができる、ダイレクトリクルーティングサービスを開発し、新卒限定で提供しているのだ。
この “OfferBox” によって、企業は「会いたい学生」の情報を検索して効率的にコンタクトを取ることができる。
もともと新卒採用はミスマッチが顕在化している市場だ。入社3年後に3割が離職する。あまり知られていないが、3年後の活躍実感もかなり低い。
中野社長はそうした状況を改善したいと願っていた。
そして、その方法論を模索する中で、こう考えた。
適正なマッチングを実現するためには、毎年学生を採用している企業がマッチしそうな学生にアプローチする方法があってもいいのではないかと。
まさに、逆転の発想だ。
このシステムが多くの学生と企業に受け入れられ、サービス規模は順調に拡大している。現在利用中の学生は1学年20万人、就活生の3人に1人を超え、もう少しで50%にまで迫る勢いだ。登録企業も11,000社(※)に上る。
「リクルート界の革命」と評される所以だ。
※累計アカウント開設企業数であり、直近で利用していない企業を含む(2022年8月時点現在)
人と人とをつなぐ
“i-plug” の “i” は人間の形と似ている。“plug” は、つなぐもの。人と人とをつなぎたい―“i-plug” という社名には中野社長のそんな想いが込められている。
中野社長はいわゆる氷河期の卒業生だ。就職が決まらないまま卒業し、最初に入った企業は、絵に描いたようなブラック企業だった。そこを4か月ほどで辞めて10か月間ニート生活を送る。
その後、たまたま入ったのが、現在のパーソルホールディングス株式会社のグループ会社(旧・株式会社インテリジェンス)だった。そこで10年間、求人広告市場の営業を担当した。
実は営業は大の苦手だった。だが、歯を食いしばって頑張っているうちに、関西最下位から全国トップクラスにまで成績を伸ばした。
ところが、そこでリーマンショックに見舞われる。
それを機に、心機一転、グロービス経営大学院に入学して、ビジネスの勉強を始めた。学び直しは予想以上に楽しかった。わくわくした日々を過ごす中で、その充実感を子どもの世代にも体感してほしいと切に願うようになった。
しかし、目の前には、学んだことをキャリアにつなげることが難しいという現実がある。
「この課題をなんとか解決することはできないものか」と、中野社長は真剣に考えるようになった。
学びとキャリアをつなぐためには、学生と企業、人と人をつなぐ必要がある。
それは、日本に限らず、世界中で必要とされていることではないのか。
チャレンジする価値が十分にあるミッションだ。
こうして中野社長は、グロービス経営大学院で出会った仲間と一緒に起業する道を選んだのだ。
1人ひとりが持つ”キャリア・ポテンシャル” を引き出す
i-plugの事業は順調だが、中野社長は決して現状に満足していないそうだ。
「人生100年時代」と呼ばれるこれからの社会。新たな時代の働き方にマッチしたサービスの創造を通して、より多くの人が生きがいといえるほどのキャリアを築けるよう、個人へのキャリア支援を続けていきたいと考えているのだ。
“OfferBox” はそれを解決するひとつの手段にすぎない。もっと幅広い人々を対象に多様なサービスを展開していきたい。
「一人ひとりが持つ、”キャリア・ポテンシャル” を引き出す」
それがi-plugの新たなパーパスである。
上場に向けてのパートナーシップと上場を勧める理由
上述のように、中野社長と黒坂はパートナーシップを組み、上場への道のりをともに歩んだ。
何でも相談できるのはとことん信用しているから
上場準備は初めての経験だけに、わからないことが山積みだったと中野社長は振り返る。
「でも、黒坂さんには、知らなければならないことを早めに教えていただいて助かりました。わからないことがあれば、何でも相談しました」
i-plugはミッションやビジョンを実現するための行動様式を示す「5Values」を定めている。
その中の1つに、
「常にフラットな視座で、特定の営利だけを考えるのではなく、全てのステークホルダーに対しフェアであること」
というものがある。
経営には最適利益率があって、各ステイクホルダー毎にそれに照らした最適バランスが存在すると中野社長は考えている。それをビジネスモデルを用いながら確実に実現していかなければならない。
だがストックオプションひとつとっても、どのようなバランスで配分していくのかは非常に悩ましかった。
創業メンバーである各取締役の、報酬、株式、役割をどう割り振るかも重要案件だ。
IPOの準備の過程では、このように非常にセンシティブな判断が必要とされる。
「“一回まちがったら終わり”という判断を、経営者の責任で下さなければならない瞬間があります。その度に黒坂さんに助けられました。大切なことを何でも相談できるのは、とことん信用している人だからです」
上場目前での買収
上場準備をしている途中で、中野社長は大きな決断を迫られる事態に直面することになる。
現在、子会社になっているイー・ファルコンのM&Aだ。
「私には迷う余地がないことで、一瞬で決断したのですが、社外からはずいぶん反対されました」
無理のない話だ。
上場に向けて全員がひた走り、ようやくゴールが見えてきたという時期である。もし買収したら、予定通りに上場できなくなるのは必至だ。
どちらを優先させるんだという議論が沸き起こっても当然の事態だった。
しかし、中野社長はぶれずに即決した。
イー・ファルコンとはそれまで業務提携をしていて、とても相性が良いと感じていた。
それが実現するタイミングなどそうそうあるものではない。
反対論も渦巻く一方、黒坂は何も言わなかった。
「中野社長が決断なさるまでには当然、いろいろなことがあったと思います。M&AをしたらIPOが延びるのに、それがわかり切っている中野社長がこの時期にやるからには、相当な想いと覚悟がおありのはず。優れた経営者である中野社長の経営判断に対して私ができるのは、それを尊重することだけです」
結局、上場時期は延びたが、そのときの中野社長の判断が正しかったのは、その後の業績が証明している。
何度でも上場を選ぶ
上場を果たした今、やっとチャレンジする権利を得たように感じていると中野社長は語る。
それは、もう一回スタートアップを立ち上げるような、わくわくする感覚だ。
会社はいい方向に大きく変わり、ダイナミックな攻め方ができるようになったという。
上場前はリソースや資金がなく、社会からの認知度、信用もないので、大きいことができなかった。
一方、上場後は、資金、人、信用が増し、会社はちょっとアクセルを踏み込んだだけで、みるみるスピードが出る車になった。
上場準備のプロセスで、社内の問題点を洗い出して改善していき、しっかりした内部体制を作るのも非常に重要だ。内部統制が強固でないと、ハンドル操作をちょっと誤っただけで大事故を起こしてしまう。
社内の整備ができ、対外的な信用度が増し、攻めの姿勢がとれる。上場は会社にとっていいことずくめで、デメリットを挙げるのが難しい。
何度繰り返しても、上場を選択すると中野社長は断言する。
ベンチャー企業へのエールと黒坂へのメッセージ
現在の2人の関係はどのようなものなのだろうか。
スタートアップの支援者同士としての絆
現在、中野社長と黒坂は、関西のスタートアップ企業のサポーター同士として、そのつながりを深めている。
中野社長は9年前から「秀吉会」に入会し、現在代表理事を務めている。太閤秀吉のように、天下一を目指すスタートアップ企業の集まりだ。メンバーは皆若く、中野社長を慕う経営者が多いという。
もともとi-plugは外部評価が高い会社だ。例えば、全国に約1万あるスタートアップのうち、現在200社あまりしか選定されていない“J-Startup企業”として認定されている。
その上、上場して、さらに業績を伸ばしているのだ。中野社長に憧れ、中野社長のようになりたいという経営者が増えるのは当然だろう。
中野社長は「秀吉会」の所属メンバーを次々に黒坂に紹介している。それは、世話になった恩返しではあるが、それ以上に、知り合った方がいい人同士をつなげているにすぎないと中野社長は言う。
「大切なお仲間を紹介していただけるのは、本当に有難いことです。これほど嬉しい応援はありません」
黒坂は心から感謝している。
だが実は、黒坂が独立について相談した時、中野社長は真向から反対したという。なぜなら、黒坂はMUFGの社員でありながら、組織の枠に縛られず、やりたいことが自由にできていたからだ。それはふつうのサラリーマンの対局にあるような働き方だった。
「大きな組織の中で自由に動けるポジションを手に入れていて、月々の報酬が保証されている。だったら、MUFGの看板を使った方が、情報も入りやすいでしょうし、やりたいこともできるのではないかと思ったんです」
自分のことを親身になって心配し、敢えて反対してくれた中野社長に、黒坂は今も感謝している。
中野社長の指摘どおり、関西だけにいたのでは、確かに情報が枯渇してしまう。
しかし、現場と喧嘩別れをしたわけではないので、黒坂は現在でもMUFGと連携をとっているという。
また、さまざまな情報が入ってくるルートも確保し、中央の情報をもってくることを大切にしている。
ただ、東京の最先端の情報を得るためには、中野社長が持つ上場ベンチャー企業同士のネットワークの力を借りたいと黒坂は言う。今後も中野社長に、中央の情報を持ち帰ってきてほしいと願っている。
スタートアップへのエール
中野社長はスタートアップこそ上場すべきだと考えている。
事業を通じて世の中に独自の価値を提供することができるからだ。
上場すると、社会的な信用やファイナンスなど全然違う。会いたい経営者に会うこともできる。入ってくる情報や手段もけた違いで、戦略も無数といえるほどに増える。社員の採用にも間違いなくプラスに作用する。
だが、万が一、最終的に上場できなかったとしても、上場準備はかけがいのない経験になるはずだ。会社がいい意味で鍛えられる。
「それに、全員が同じ1つの目標を目指して進むんですよね。皆で横並びになって一緒に走るって、そのときだけの特殊な空間だと思います」
中野社長からスタートアップへのエールをいただこう。
「私が経験したこと、私が知っていることは何でもシェアします。社会に貢献できる企業へと、ともに成長していきましょう」
黒坂へのメッセージ
最後に、黒坂にもメッセージをいただいた。
「関西エリアは信用と信頼の連鎖でコミュニティが成り立っています。そこに根を張り、ベンチャー支援を続けられるのは、黒坂さん以外考えられません。これからも一緒に関西のスタートアップ界隈を盛り上げていきましょう」
ただ、中野社長には、もうひとつだけ、黒坂に伝えたいことがあるという。
「黒坂さんのからだは、黒坂さんだけのものではありません。IPOを目指し、黒坂さんを頼りにしている方々がたくさんいらっしゃいます。クライアントからの報酬は適正価格にして、黒坂さんがしなくてもいい仕事を任せられる体制を作ってください。報酬が安すぎると思います。決して無理をなさいませんように。黒坂さんができるだけ長い間幸せでいらしゃることが、私たちの幸せでもあることを忘れないでください」